「まさか」が起きた。

後輩がブルーレイを返しにきてから、数日後。(だったと思う)

季節は五月。少し温かみを帯びた風が吹くけど、暑いにには至らないそんな季節。
花粉症がなければ本当に過ごしやすい。

いつものようにギリギリの時間に出勤して、自分の席に座る。
三階の事務所まで急いできたので、いつも息絶え絶え。そんな僕を冷ややかな目で見る後輩・パートさん……ではなく、どうツッコんでいいかわからない新人とSさん。
とりあえず二人に「三階へ駆けてきたので、息が上がってます。もう少し待ってください」と言ったところ、二人とも苦笑いで対応ですよ。
まぁ、これもいつかは後輩とパートさんに馴染んでくるだろうなぁ。
……なんて思ってた時期が僕にもありました。

僕の呼吸が整いつつある頃、Sさんが小さく声をかけます。
「ちょっといいですか?」
「……はい、なんですか?」
「ちょっと事務所の外へ……」
ちょっと真剣なすこし緊張したような表情。一目でなにかあるとわかりました。
というかこの展開、どこかで経験したことがある。

たしかあの時は……パートさんが……まさかね。
なんてことを考えながら、事務所の外で話を聞くことになりました。

事務所の外は物流センターの倉庫内なので、リフトの動く音やらでそれなりに音が大きい。それだけに内緒の話もしやすいってものだ。僕は呑気にSさんからの言葉を待ちました。
今日も天気で窓からは日差しが差し込んで眩しい。こんな日光が強くなってきたんだなぁ。日本もそろそろ夏支度なん――
「実はですね……できてしまいました」
あぁ、日本も夏だなぁ……ん? 今なんか言った?
「後輩さんとパートさんに続いてしまいました」
「……う、嘘?」
ごめん。僕の耳が言葉を拒否する。もうありえないと思ってたことが、まさに起こった瞬間であった。

そう。
Sさん、ご懐妊である。

ま〜じ〜で〜! 今日は4月1日なんでしょ? ドッキリでしょ? ドッキリ。
僕は半笑いでSさんを見る。Sさんはにこにこと僕を見ていた。すげー晴れがましい表情
んぎゃ〜っ!

なんだこの偶然はっ!
一年近くの間に三人が妊娠!一年間で僕の部署で働いた女性は四人。そのうち三人。
「なんですかね。この連続は」いや、Sさん、嬉しそうに言うなぁ〜。いや、実際嬉しい事なんだけどさ。

……リープ、本人の気づかない間に子宝の神様なっちゃった疑惑。
あはは、あはははは。(おかしくなった)
僕と仕事すると妊娠するよ〜(誤解のある表現)

じゃねーっ!
――なんだこれは。

そもそも本人にはなんら恩恵がない。
この時点で知ってたのは課長と僕だけ。課長には「お前は一体なんなんだよ」と言われる始末。

いや、僕が聞きたいですよ……
ってことでSさんも近いうちに産休ですよ。
メンバーチェンジが激しすぎだろ。

席に戻ったと、新人を思わす見てしまった。新人は不思議そうに僕を見てる。
大丈夫だよね? 大丈夫だよね? とは聞けず、咳払いして着席したのでした〜。

とにかくSさん妊娠おめでとう!